「ジャガイモは高血圧のリスクになる」という興味深い研究結果が、アメリカから発表されました。
長期間ジャガイモを摂取し続けることが、高血圧のリスクになるのかどうか、19万人近くの人を対象に20年以上経過観察を行い、発症リスクに関する分析を行った結果の発表です。
以下に詳しく見ていきたいと思います。
目次
今まで常識とされていたジャガイモの血圧降下作用
塩分(ナトリウム)の摂り過ぎが血圧を上げる要因であることは、今や常識として知られています。
これに対し、同じミネラルでも、果物類、豆類、野菜類、芋類、肉類、魚介類などに多く含まれるカリウムは、体内の余分なナトリウム(塩分)を尿として体の外へ排泄することを促し、血圧を下げる効果があります。
なので、ジャガイモはカリウムを豊富に含んでいるため、血圧を下げる効果が期待できます。
(ジャガイモのカリウム含有量は100gあたり330mg)
このことは世間一般にもよく知られているようで、ネット上には「ジャガイモには血圧を下げる効果がある」という趣旨のサイトやページ、料理のレシピなどが多数見られます。
これも半ば常識になりつつあるのかもしれません。
ジャガイモは高血圧のリスク???
ところが、つい最近「ジャガイモは高血圧のリスクになる」という常識を覆す衝撃的な(?)研究結果が、アメリカから発表されました。
文献:Lea Borgi, Eric B Rimm, Walter C Willett, John P Forman. Potato intake and incidence of hypertension: results from three prospective US cohort studies. BMJ 2016; 353
邦題:ジャガイモの摂取量と高血圧の発症率: 米国における3つの前向きコホート研究の結果
これはいったいどういう研究結果なんでしょうか?
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高血圧について
研究の内容を見る前に、まず高血圧ついて考えてみます。
厚生労働省によると、平成21年の日本人の死因(全年齢)第1位は悪性新生物(癌)30.1%、第2位は心疾患15.8%、第3位は脳血管疾患10.7%、第4位は肺炎9.8%、第5位は老衰3.4%となっています。
このうち、第2位の心疾患と第3位の脳血管疾患は、高血圧によって、その発症リスクが高くなることがわかっています。
高血圧の原因は?
高血圧の9割以上は原因不明とされ、本態性高血圧と呼ばれます。
本態性高血圧は、遺伝因子と環境因子が複雑に絡み合って発症すると言われています。
環境因子の中で有名なのは、最初に述べた塩分(ナトリウム)の摂り過ぎですが、糖質の過剰摂取も血圧上昇の要因であると考えられています。
糖質過剰摂取と高血圧
1.糖質を過剰摂取すると、血糖値が高くなります。
血糖値が高くなると血液の浸透圧が上がり、血液中の水分が増えて循環血液量が多くなるため、血圧が高くなります。2.糖質の過剰摂取を続けていると肥満になります。
肥満になると、交感神経が緊張し、血圧を上げる作用のあるカテコラミンの分泌が多くなるため、高血圧になります。3.高血糖が長く続くと、インスリン抵抗性となります。
インスリンが効きにくくなるため、それを補うためインスリンが大量に分泌され、高インスリン血症となります。
高インスリン血症になると、交感神経の緊張、ナトリウム排泄の減少等により、血管が広がりにくくなり、血液量も増え、血圧が高くなります。
以上のことを踏まえて、研究の内容をざっくり見て行きます。
ジャガイモの摂取量と高血圧の発症率: 米国における3つの前向きコホート研究の結果
緒言
ジャガイモは、グリセミック炭水化物(注1)とカリウム(高血圧などの慢性疾患の予防効果がある)の双方を豊富に含むため、高血圧の発症リスクへの影響は不明とされてきた。これまでは、長期間ジャガイモを摂取し続けることが、高血圧のリスクになるのかどうか検討されていなかった。
今回、20年以上経過観察した187,453人のデータを用い、ジャガイモの摂取量や頻度と高血圧の発症リスクに関する分析を行った。
(注1)グリセミック炭水化物:
ここでは、グリセミック・インデックス(GI)の高い炭水化物を指すものと思われます。
GIは、Glycemic Index(グリセミック・インデックス)の略で、食後血糖値の上昇度を示す指標のことです。
食品に含まれる糖質の吸収度合いを示し、摂取2時間までに血液中に入る糖質の量を計ったものです。
2003年にWHO(世界保健機関)から「過体重、肥満、2型糖尿病の発症リスクを、低GI食品が低減させる可能性がある」というレポートが出されました。
GIは、ブドウ糖を基準としており、これのGI値を100としています。
70以上の食品を高GI食品、55~69の食品を中GI食品、55以下の食品を低GI食品と定義しています。
(出典:そもそもGIって何? | 大塚製薬)
対象
3つのコホート(対象者母集団)のデータを使用。
第1群:米国看護師健康調査
(NHS:1976年登録開始、30~55歳の女性、121,700人)
第2群:米国看護師健康調査II
(NHS II:1989年登録開始、25~42歳の女性、116,430人)
第3群:米国医療従事者追跡調査
(HPFS:1986年登録開始、40~75歳の男性、51,529人)上記のうち、研究開始時に高血圧を認めなかった、NHS:62,175人、NHS II:88,475人、HPFS:36,803人を対象とした。
方法
ジャガイモは、3つの調理方法に分類。
1.焼きポテト/茹でポテト/マッシュポテトのいずれか
2.フライドポテト
3.ポテトチップスこれらを、4つの摂取量別に解析を行った。
1.月に1回未満
2.月に1~3回
3.週に1~3回
4.週に4回以上
結果
調査期間中に77,726人が高血圧と診断された。
内訳は、NHS:35,728人、NHS II:25,246人、HPFS:16,752人。摂取量が週に4回以上の集団は、月に1回未満の集団と比較して、高血圧発症リスクが以下のように変化した。
1.焼きポテト/茹でポテト/マッシュポテト群
NHS:13%増加
NHS II:25%増加
HPFS:5%減少2.フライドポテト群
NHS:17%増加
NHS II:17%増加
HPFS:16%増加3.ポテトチップス群
NHS:3%増加
NHS II:2%増加
HPFS:14%減少
これは、焼きポテト/茹でポテト/マッシュポテトを週に4回以上食べる女性と、フライドポテトを週に4回以上食べる男女は、高血圧のリスクが高くなるという結果です。
ポテトチップスの場合は、男女ともリスクの増加はありませんでした。
しかし、フライドポテトを週に4回以上食べる日本人は、そう多くないんじゃないでしょうか?
いかにもアメリカ的な気がします。
置換分析では、1日1回の焼きポテト/茹でポテト/マッシュポテトを、1日1回の非デンプン質野菜に置き換えると、高血圧のリスクは有意に低下した。
解説
ジャガイモに豊富に含まれているカリウムは、高血圧の予防に有用であると考えられていますが、一方で、ジャガイモにはGIの高い炭水化物が豊富なので、血糖値が上がりやすく、高血圧を引き起こしやすい可能性があります。
ジャガイモのGIは90と非常に高いので、高GI食品に分類されます。
ちなみに、ジャガイモのライバル(?)サツマイモのGIは55なので、低GI食品になります。
(参考資料:GI値リスト)
しかし、普段食べるジャガイモ1食分を非デンプン質野菜に置き換えることで、そのリスクは軽減するということなので、ジャガイモを食べすぎないようにするとか、野菜を多く摂ることを心がければ、それほど心配することはないのではないかと思います。