血栓塞栓症とは、簡単に言うと、何らかの原因で血管に血液の塊が詰まることです。
血栓塞栓症で、良く知られているものに、エコノミー症候群や心筋梗塞、脳梗塞などがありますが、それらの発症リスクが、血液型によって差があるという研究発表がなされました。
以下に見ていきたいと思います。
目次
ABO式血液型と血栓塞栓症や動脈疾患のリスク:150万人の献血者の調査
Vasan SK, Rostgaard K, Majeed A, Ullum H, Titlestad KE, Pedersen OB, Erikstrup C, Nielsen KR, Melbye M, Nyrén O, Hjalgrim H, Edgren G. ABO Blood Group and Risk of Thromboembolic and Arterial Disease: A Study of 1.5 Million Blood Donors. Circulation. 2016 Apr 12; 133 (15): 1449-57.
文献要約
【背景】ABO式血液型は、静脈血栓塞栓症および動脈疾患のリスク増加に関連することが示されている。
しかし、これまで報告されてきたこれらの関連性は小規模研究に基づいており、一貫性がなかった。
【方法と結果】ABO式血液型と、初発または再発性静脈血栓塞栓症、および動脈疾患の発生率との間の関連性を調査するために、他の全国健康調査データ登録とリンクしたSCANDAT2(スカンジナビア献血輸血)データベースを用いた。
対象は1987年~2012年のデンマークとスウェーデンの献血者。
1,112,072例、のべ13,600,000人年(注1)の追跡で、9,170例の静脈血栓塞栓イベントと、24,653例の動脈血栓塞栓イベントが発生した。
ポアソン回帰分析(注2)の結果、血液型がO型の人と比較して、非O型の人は、静脈および動脈血栓塞栓症の発症リスクが高かった。
最も発症率比が高かったのは、妊娠関連静脈血栓塞栓症で2.22倍、以下、深部静脈血栓症の1.92倍、肺塞栓症の1.80倍であった。
【結論】ABO式血液型で潜在的な血栓塞栓症リスクを予測することはできるが、実際の臨床的有用性については、他のリスク因子とのさらなる比較検討が必要である。
注1)人年法(person-year method)
1人年=1人の対象者を1年間観察した場合の観察期間を1単位とする。
例えば、100人の人を2年、別の200人の人を3年間観察した場合、
100×2+200×3=200+600=800人年
となる。
注2)ポアソン回帰分析
稀にしか起こらない現象に関するカウントデータを分析するための手法だそうです。
例えば、交通事故の発生件数、地震の発生件数、サッカーの得点数、馬に蹴られて死亡した兵士数などが有名だそうです。
計算方法等は難しすぎて、ここでは説明できません(^^;
(出典:第15章 ポアソン回帰分析 | 我楽多頓陳館)
動脈血栓塞栓症と静脈血栓塞栓症
血栓塞栓症には、動脈血栓塞栓症と静脈血栓塞栓症の2種類があります。
動脈血栓塞栓症
動脈(心臓から押し出される血液が流れる血管)に血栓(血の固まり)がつまる(塞栓する)病気です。
脳梗塞、心筋梗塞、上腸管膜動脈血栓症、閉塞性動脈硬化症などがあります。
静脈血栓塞栓症
静脈(心臓へ流れ込む血液が流れる血管)に血栓がつまる病気です。
肺血栓塞栓症(肺梗塞)と深部静脈血栓症(エコノミークラス症候群)があります。
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血栓塞栓症リスクはAB型>A型=B型>O型の順に高い
なぜO型以外の人の血栓塞栓症リスクが高くなるのか、その原因ははっきりと特定されていませんが、著者らによると、血液凝固因子(血液が固まる時に必要な因子)の濃度が、O型の人に比べて非O型の人で高くなっていること(血液凝固能亢進)が分かっているらしく、これが血栓塞栓症リスクの一因ではないかと考えているとのことです。
上の文献要約には記載されていませんが、文献本文の中には、
血液型ごとに詳しく分析したところ、静脈血栓塞栓症のリスクはAB型で最も高く、O型の人に比べて2倍であった。一方、A型とB型の人のリスクはいずれもO型の人の1.7倍であった。
と書かれているようです。
血栓塞栓症の発症には、血液凝固能亢進の他に、血流の停滞、血管内皮の損傷など、他にいろいろな因子が関わっているので、血液型の違いのみが原因であるとは考えづらいですが、O型以外の人は一応気を付けておいた方がよさそうですね。