頻尿の中でも、夜間帯のみの頻尿に特化して記したいと思います。
日中の頻尿についてはこちらをご覧ください↓↓
「就寝中に1回以上排尿のために起きなければならず、そのために日常生活に支障をきたす状態」を夜間頻尿と言います。
目次
加齢とともに増える夜間頻尿
夜間頻尿は、排尿に関する症状のうちで最も頻度が多く、40歳以上の男女において、約4,500万人がこの症状に悩まされていると言われています。
夜間頻尿の頻度は、加齢とともに高くなります。
上記グラフは、夜間頻尿診療ガイドライン25ページの表を基に作成しました。
参考文献:Homma Y, Yamaguchi O, Hayashi K, the members of the Neurogenic Bladder Society Committee. Epidermiologic survey of lower urinary tract symptoms in Japan. Urology 2006; 68: 560-564
このグラフを見ると、実に60歳以上の男性の8割以上、同じく女性の7割以上が夜間就寝中に1回はトイレのために起きているということになります。
60歳以上で、夜1回トイレに起きるのは、半ば当たり前ということになります。
なお、夜間就寝中に何度トイレに起きようと、日常生活に支障をきたさず、患者も介護者も困っていないという場合は、治療の対象になりません。
夜間頻尿の原因は?
夜間頻尿の原因は、
1.多尿(夜間多尿)
2.膀胱容量の減少
3.睡眠障害
があります。
多尿(夜間多尿)
夜間頻尿の原因で最も多いのが、この夜間多尿です。
多尿とは
「多尿とは1日尿量が3Lを超える状態」と書かれているサイトが多いですが、年齢や体重によって差がありますので、「1日尿量が体重1kgあたり40mL以上」が、多尿と定義されます。(国際禁制学会用語基準)
例えば、体重50kgの人であれば、40mL×50で、2,000mL以上が多尿となります。
ちなみに、成人における正常な尿量は、1日1,000~2,000mLです。
夜間多尿とは、上記の多尿とは別に、夜間(就寝中)尿量が多い状態で、高齢者では1日尿量の33%以上、若年者では1日尿量の20%以上と定義されます。(国際禁制学会用語基準)
例えば、1日尿量が1,500mLの人なら、高齢者で1,500mL×0.33=495mL(約500mL)以上、若年者で1,500mL×0.2=300mL以上が夜間多尿になります。
他には、体重1kgあたり10mL以上を夜間多尿と定義する方法もあります。
これだと、例えば体重50kgの人であれば、10mL×50=500mL以上が夜間多尿となります
夜間多尿の原因
夜間多尿の原因はさまざまですが、一番多いのは水分の過剰摂取です。
その他には、加齢による抗利尿ホルモンの日内変動の変調、アルコールやカフェイン摂取、高血圧、高血圧の薬(利尿剤、降圧剤)、浮腫(むくみ)、腎機能障害、尿崩症、糖尿病、慢性心不全、睡眠時無呼吸症候群などが挙げられます。
・加齢による抗利尿ホルモンの日内変動の変調
抗利尿ホルモン
脳下垂体後葉から分泌されるホルモンで、バゾプレシン、ADH(Antidiuretic Hormon)ともいう。腎臓の尿細管に作用し、水分の再吸収を抑制して、尿量を減少させる。主に夜間就寝中に分泌され、日中覚醒時はあまり分泌されない。そのため、夜間就寝中の尿量は、通常最大膀胱容量1杯分程度に保たれる。また、脱水状態やショック状態で循環血漿量が減少した時にも分泌され、体液を保持する役目を持つ。
高齢者では、本来は夜間就寝中に分泌されるはずの抗利尿ホルモンの分泌が低下するため、夜間多尿による夜間頻尿となります。
・高血圧患者の夜間多尿
高血圧の患者や高齢者では、副腎や交感神経・脳細胞から分泌される神経伝達物質であるカテコラミンの分泌が多くなっています。
カテコラミンは血管を収縮させて、血圧を上げる作用を持っていますが、腎臓に流れ込む血管も収縮させるので、腎血流が少なくなり、尿量が減少します。
これが夜になると、カテコラミンの分泌が少なくなり、血管が拡張して腎血流が多くなり、尿量が増加して、夜間多尿となります。
・高血圧の薬による夜間多尿
高血圧の薬で、Ca(カルシウム)拮抗薬という種類の薬は、腎臓へ流れ込む血管を拡張するのと、抗利尿ホルモンの分泌抑制作用があるため、夜間多尿の原因となります。
利尿薬が含まれている配合剤では、夕食後や就寝前に服用した場合は、利尿薬の利尿作用により、夜間多尿となります。
Ca拮抗薬一覧(カッコ内は商品名)
ニフェジピン(アダラート、アダラートL、アダラートCR、セパミット、セパミットR)、アムロジピン(ノルバスク、アムロジン)、ニホニジピン(ランデル)、シルニジピン(アテレック)、ニカルジピン(ペルジピン、ペルジピンLA)、ニソルジピン(バイミカード)、ニトレンジピン(バイロテンシン)、ニルバジピン(ニバジール)、パルニジピン(ヒポカ)、フェロジピン(ムノバール、スプレンジール)、ベニジピン(コニール)、マニジピン(カルスロット)、アゼルニジピン(カルブロック)、アラニジピン(サプレスタ、ベック)、ジルチアゼム(ヘルベッサー、ヘルベッサーR)
アムロジピンが含まれている配合剤(商品名)
ユニシア、ユニシアHD、エクスフォージ、ミカムロAP、ミカムロBP、レザルタスLD、レザルタスHD、アイミクスLD、アイミクスHD、ザクラスLD、ザクラスHD、アテディオ、カデュエット
利尿薬が含まれている配合剤(商品名)
エカードLD、エカードHD、プレミネントLD、プレミネントHD、コディオMD、コディオEX、ミコンビAP、ミコンビBP、イルトラLD、イルトラHD、ベハイドRA
・浮腫(むくみ)による夜間多尿
何らかの原因で、下肢(足)がむくんでいる人は、夜間多尿になります。
これは、日中起きている時は、重力の関係で下肢(足)に水が溜まっており(浮腫)、夜横になって就寝すると、その水が体幹の方に戻ってきて、腎臓で濾過されて尿になるため、夜間の尿量が増加します。
膀胱容量の減少(蓄尿障害)
膀胱に少量の尿しか貯められないため、日中も夜間も頻尿になります。
原因としては、過活動膀胱や前立腺肥大症といった疾患や、膀胱炎、前立腺炎などの尿路感染症が挙げられます。
睡眠障害
眠りが浅く、すぐ目が覚めてしまうため、目が覚めるたびに気になってトイレに行くものです。
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夜間頻尿の対策・治療
自分でできるものと、病院での治療が必要なものがあります。
水分過剰摂取を控える
「血液をサラサラにするために」大量の水を飲んでいるという人は多いです。
確かに、水を大量に飲んだ直後は確かに血液が薄く(サラサラに)なりますが、ヒトの体は恒常性維持機能(ホメオスタシス)が常に働いているので、腎機能が正常であれば、体内の余分な水分は尿としてすぐに排出されます。
高齢者においては、脱水が脳梗塞の発症因子であることは報告されていますが、大量の飲水が、いわゆる「血液をサラサラにする」効果により、脳梗塞の予防になっているというエビデンスはなく、飲水後に血液粘稠度の変化は認められなかったと報告されています。
参考文献:Sugaya K, Nishijima S, Oda M, Miyazato M, Ogawa Y. Change of blood viscosity and urinary frequency by high water intake. Int J Urol 2007; 14: 470-472
余計な水分摂取をやめるだけで、夜間頻尿が改善することも少なくありません。
特に夕方以降、就寝前までの水分摂取は、特に喉が渇いていない場合は控えた方がよいでしょう。
アルコールやカフェインを控える
夜間にアルコールやカフェインを含む飲料を摂取すると、その利尿作用により、夜間多尿の原因になるため、控えた方がよいでしょう。
むくみ対策
心臓から送り出され、足に流れた血液は、重力に逆らって心臓に戻ってくることになります。
この時、ふくらはぎの筋肉がポンプの役割を果たして血液やリンパ液の循環を手助けします。
長時間同じ姿勢で立ったり座ったりしている時、筋力が低下している時は、このポンプ作用がうまく働かず、循環が悪くなり、足がむくむ原因となります。
また、冷え性で血行不良になると、循環が悪くなるので、むくみやすくなります。
運動やストレッチ、マッサージをすることで、下肢の循環が改善し、むくみが解消します。
どうしてもむくみが取れない場合は、弾性ストッキングを着用すると、強制的に下肢が締め付けられるため、むくみの予防になります。
4.専門医の診断・治療を受ける
その他の原因(加齢による抗利尿ホルモンの日内変動の変調、高血圧、高血圧の薬(利尿剤、降圧剤)、腎機能障害、尿崩症、糖尿病、慢性心不全、睡眠時無呼吸症候群、過活動膀胱、前立腺肥大症、尿路感染症、睡眠障害など)による夜間頻尿は、病院(専門医)での診断と治療を受ける必要があります。