緑茶を飲むことが、認知症の改善、発症や進行の予防に効果があるということは以前から言われています。
これまでに世界各国でいろいろな研究がなされてきました。
目次
緑茶を1日2杯以上飲むと認知症になる危険が54%低下する(東北大の研究)
2006年には、東北大学公衆衛生学(辻一郎教授)の研究グループが「American Journal of Clinical Nutrition」に論文を発表しています。
原著:Green tea consumption and cognitive function: a cross-sectional study from the Tsurugaya Project
Shinichi Kuriyama, Atsushi Hozawa, Kaori Ohmori, Taichi Shimazu, Toshifumi Matsui, Satoru Ebihara, Shuichi Awata, Ryoichi Nagatomi, Hiroyuki Arai, and Ichiro Tsuji
Am J Clin Nutr. 2006 Feb;83(2):355-61.
(邦訳:緑茶の摂取と認知機能:鶴ケ谷プロジェクトからの横断研究)
これによると、下図のように、緑茶の摂取頻度が多いグループほど、認知障害のある割合が低くなりました。
(対象は70歳以上の高齢者1178人)
(出典:東北大学公衆衛生学講座)
緑茶を1週間に3杯までしか飲まないグループ(赤)に比べ、週に4杯~1日1杯飲むグループ(青)では、認知障害のオッズ比(注)が0.62(95%信頼区間 0.33~1.19)、1日2杯以上飲むグループ(緑)ではオッズ比が0.46(同0.30~0.72)となっています。
注)オッズ比 Odds Ratio
生命科学の分野において,ある疾患などへの罹りやすさを2つの群で比較して示す統計学的な尺度である.オッズ比が1とは,ある疾患への罹りやすさが両群で同じということであり,1より大きいとは,疾患への罹りやすさがある群でより高いことを意味する.逆に,オッズが1より小さいとは,ある群において疾患に罹りにくいことを意味する.例えば,ある多型が疾患群100名中の40名で,健常群100名中の20名で認められたとする.このオッズ比は,(40/60)/(20/80)=2.67となる.これは,ある多型において疾患群で出現するリスクが健常群に対して2.67倍高いこととなる.
(2008.2.26 掲載)[FYI用語解説(ファルマシアVol.43,No.10)より転載]
(出典:薬学用語解説)
統計学が出てくると難しく感じますが、簡単に言うと、緑茶を1日2杯以上飲むグループは、週に3杯までしか飲まないグループに比べ、認知障害のリスクが54%低減したということです。
週に4杯~1日1杯のグループも、オッズ比が38%低下しますが、95%信頼区間に1を含むので、統計学的に有意差なしとなります。
紅茶・ウーロン茶・コーヒーは効果なし
紅茶・ウーロン茶でもオッズ比の低下が見られますが、同様に有意差なしとなります。
コーヒーでは、オッズ比の低下は見られませんでした(むしろ上昇)。
緑茶を毎日飲むと認知症になる危険が68%低下する(金沢大の研究)
最近では、金沢大学神経内科(山田正仁教授)の研究グループが、2014年に「PROS ONE」に論文を発表しています。
原著:Consumption of Green Tea, but Not Black Tea or Coffee, Is Associated with Reduced Risk of Cognitive Decline
Moeko Noguchi-Shinohara, Sohshi Yuki, Chiaki Dohmoto, Yoshihisa Ikeda, Miharu Samuraki, Kazuo Iwasa, Masami Yokogawa, Kimiko Asai, Kiyonobu Komai, Hiroyuki Nakamura, Masahito Yamada
Published: May 14, 2014
http://dx.doi.org/10.1371/journal.pone.0096013(邦訳:紅茶やコーヒーではなく、緑茶の摂取が認知機能低下のリスク低下と関連している)
これによると、緑茶を飲まないグループに比べ、週に1~6日飲むグループでは、認知障害のオッズ比が0.47(95%信頼区間 0.25~0.86)、毎日飲むグループではオッズ比が0.32(同 0.16~0.64)と低下していました。
(対象は60歳以上の認知機能正常者723例、追跡期間は約5年)
(出典:Medical Tribune)
これも簡単に言うと、緑茶を飲まないグループに比べ、緑茶を週に1~6日飲むグループは認知障害のリスクが53%低減、毎日飲むグループは68%低減するということです。
これは東北大学の研究結果よりも下げ幅が大きくなっています。
週に1回でも緑茶を飲めば、認知症になる危険が半減するという結果です。
やはり紅茶・ウーロン茶・コーヒーは効果なし
コーヒーや紅茶ではオッズ比の低下はなく、有意差がありませんでした。
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ポリフェノールの一種「緑茶カテキン」に認知症予防効果あり
緑茶に含まれるポリフェノールの一種「カテキン」が、認知機能低下のリスクを減少させる物質とされていますが、カテキン自体は、同じ茶葉から作られるウーロン茶や紅茶にも含まれています。(コーヒーにカテキンは含まれていません。)
(出典:日本カテキン学会)
なぜ緑茶カテキンだけが認知症に効果があるのか?
緑茶に多く含まれるカテキンは、エピガロカテキン、エピガロカテキンガレート、エピカテキン、エピカテキンガレートで、その中でもエピガロカテキンガレートが一番多く、含まれるカテキンの50~60%を占めています。
その中でも生理活性が高い成分は、エピガロカテキンガレートです。
(出典:日本カテキン学会)
カテキンは発酵により重合する
ウーロン茶や紅茶は、緑茶を発酵させて作るので、緑茶に含まれているカテキンが重合して、ウーロン茶ではウーロンテアニンに、紅茶ではテアフラビンに変化します。
(出典:日本カテキン学会)
エピガロカテキンガレートに認知症予防効果がある
エピガロカテキン-3-ガレート (Epigallocatechin-3-gallate (EGCG))には、単に体内の有害物質を取り除くばかりでなく、神経細胞を保護・修復する高度 な働きがあるとみなされています。
ウーロン茶や紅茶では、エピガロカテキンガレートが含まれていません。
そのため、緑茶に比べて、認知症に対する効果が低いものと考えられます。
世界のお茶の消費量
世界のお茶の消費量(2009年)はこのようになっています。
これは国民一人当たりのお茶の消費量で、アラブ首長国連邦が1位、モロッコが2位、アイルランドが3位となっており、アジアでは日本が17位、タイが20位、中国が25位となっています。
(出典:トリップアドバイザー)
表やグラフはありませんが、国別に見ると、1位インド、2位中国、3位ロシア、4位イギリス、5位日本となります。
インド、中国、ロシアなどは、人口が多いために国全体での消費量は多いものの、一人当たりの消費量はあまり多くありません。
(出典:おしえてTea Cha!)
緑茶を飲んでいるのは主に東アジアの国々
世界のお茶の約8割が紅茶として飲まれており、緑茶を飲んでいるのは、日本を含む東アジアの国々です。
国別だと中国が1位、日本は2位となります。
これが一人当たりの消費量になると、1位日本、2位ベトナム、3位中国になります。
(出典:おしえてTea Cha!)
緑茶の消費量は多いのに認知症有病率が高い日本
緑茶に認知症予防効果があることがわかりましたが、一人当たりの緑茶の消費量が世界一の日本は、認知症患者が世界一少ないかというと、そうではないようです。
日本の65歳以上の高齢者における認知症有病率は、報告によってばらつきがあり、3.8~11.0%(平均6.9%)となっています。
これは、西ヨーロッパの5.4%、東ヨーロッパの3.8~3.9%、北アメリカの6.4%、南アメリカの4.6%、北アフリカと中東の3.6%、西太平洋地域の先進国の4.3%、中国および西太平洋地域の発展途上国の4.0%、インドネシア・タイ・スリランカの2.7%、インドおよび南アジアの1.9%、アフリカの1.6%よりも高い数字です。
(出典:日本神経学会)
ただし、世界の数値は、対象年齢が60歳以上となっており、日本の調査対象の65歳以上よりも5歳若いので、数字が低く出ている可能性があります。
また、日本の認知症患者が緑茶をどれくらい飲んでいたのかは、データになっていません。
もしかしたら、認知症患者の緑茶消費量は少ないのかもしれません。
日本人なら緑茶!若いうちから緑茶を飲んで認知症を予防しよう
日本は長寿世界一です。
高齢者が増えれば増えるほど、認知症患者が増えるのは仕方がないことです。
しかし、今回ご紹介したようないろいろな研究で、緑茶には認知症予防効果や改善効果があることが証明されました。
これからは毎日緑茶を飲んで将来の認知症を予防し、はつらつとした老後を迎える準備をしましょう。