旧分類のステージⅣは、どの癌でもそうですが、癌の種類やステージによって、治療方針や予後は変わってきます。
悪性度の高い癌なのか?
リンパ節や他臓器への転移はないのか?
浸潤の程度(粘膜内に留まった癌なのか?粘膜下層および筋層まで浸潤しているのか?)
自分や家族の癌は、どの種類の癌でステージ(病期分類)はどの段階なのかを知ることで、治療に対する理解も深まります。
目次
膀胱癌の悪性度
膀胱癌は、ほとんどが尿路上皮癌と呼ばれる組織型です。
悪性度は医学的には「異型度」といい、「グレード」(Grade)と呼んでいます。
グレードは3段階で、グレード1(G1)は最も悪性度が低く、グレード2(G2)は中間型、グレード3(G3)は最も悪性度が高い癌細胞です。
G1を高分化型、G2を中分化型、G3を低分化型とも言います。
膀胱癌の組織型には、尿路上皮癌の他に、扁平上皮癌と腺癌がありますが、いずれも尿路上皮癌よりも悪性度が高い癌細胞です。
そのため、尿路上皮癌G4相当と呼ぶ医師もいます。
膀胱癌の種類
表在性膀胱癌
膀胱表面の浅いところにある(筋層にまで入り込んでない)癌です。
乳頭状癌
膀胱表面からイソギンチャク状やカリフラワー状に隆起・突出してくる癌です(縦方向の拡がり)。
乳頭状癌(出典:TIẾT NIỆU – NAM KHOA)
癌の根(深さ)は粘膜内、または粘膜下層でとどまっています。
かなり小さなものでも、無症候性血尿で見つかることが多いです。
癌のグレードはG2、G1が多く、悪性度が低いため、転移する可能性はほとんどありません。
命にかかわることはまずありませんが、再発しやすい癌です。
具体的には約半数の人に再発が見られます。
上皮内癌
膀胱粘膜内にとどまり、縦方向への拡がりがなく平坦な癌で、粘膜内を横方向にじゅうたん状に拡がって行くタイプの癌です。
上皮内癌(出典:Photocure)
癌のグレードはG3が多く、悪性度が非常に高いため進行が早く、短期間で膀胱全体に拡がったり、浸潤癌に進行する危険性の高い癌なので、早期の治療が必要です。
症状は、膀胱刺激症状(頻尿、排尿痛、残尿感、尿意切迫感など)を伴う血尿であることが多いです。
浸潤性膀胱癌
膀胱の深いところ(筋層)にまで入り込んでいる(浸潤している)癌です。
表在性膀胱癌がイソギンチャクやカリフラワー状(乳頭状)であることが多いのに対して、浸潤性の場合は、比較的つるっとした塊状になっていることが多いです。
内視鏡所見で、肉眼的に表在性膀胱癌との鑑別が容易です。
浸潤癌(出典:University of Tennessee)
上皮内癌と同様、血尿の他に膀胱刺激症状(頻尿、排尿痛、残尿感、尿意切迫感など)を伴うことがあります。
膀胱筋層には血管やリンパ管が通っているので、ここに癌が浸潤することで、全身に転移する危険性が高くなります。
進行すると、膀胱の外の組織や周囲の臓器まで浸潤することもあります。
転移性癌
浸潤性膀胱癌が他臓器に転移した状態です。
転移の好発部位は、リンパ節、肺、骨、肝臓などです。
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病期分類(ステージ)
ネットで検索すると、ステージ0、Ⅰ、Ⅱ、Ⅲ、Ⅳと書かれたものや、ステージ0、A、B、C、Dと書かれたものを見かけますが、これらは旧分類です。
泌尿器科医が現在臨床で使用しているのは、このような旧分類ではなく、国際対がん連合(UICC)によるTNM分類です。
膀胱がん診療ガイドラインにも、この分類を使うように書かれています。
TNM分類
1)局所でどれくらい進展しているか(T分類)
Tis:上皮内癌
Ta:癌が粘膜内に限局している。
T1:癌が粘膜下まで浸潤しているが、膀胱筋層にはおよんでいない。
T2:癌が筋層へ浸潤している。
T3:癌が周囲脂肪組織へ浸潤している。
T4:癌が前立腺、子宮、膣、骨盤壁、腹壁、直腸などの近接の臓器にまで浸潤している。
膀胱癌深達度(出典:がん治療データサービス)
2)リンパ節に転移がないか(N分類)
N0:リンパ節に転移はない。
N1:小骨盤内リンパ節に転移が1個ある。
N2:小骨盤内リンパ節に転移が複数個ある。
N3:総腸骨リンパ節に転移がある。
3)遠隔転移がないか(M分類)
M0:遠隔転移がない。
M1:遠隔転移がある。
旧分類とTNM分類の関係
膀胱癌病期(出典:がん情報サービス)
注)旧分類のステージⅣは、リンパ節や他臓器に転移した癌ですが、表在性膀胱癌(T1以下)では、転移はまず見られません。
膀胱癌の検査
検尿(尿沈渣)
肉眼的血尿が見られる場合は、見た目だけで血尿と判定できますが、血尿が一時的に止まっている場合は、病気を見逃すことがあるので、必ず検尿を行います。
検尿は、簡易的検査の「尿潜血反応」は偽陽性が多くて診断能力が低いので、必ず「尿沈渣」を行います。
これは遠心分離機にかけた尿を顕微鏡で直接観察する検査で、赤血球が確認できれば「血尿」と診断されます。
顕微鏡的血尿(出典:UOIT Clinical Biochemistry)
膀胱癌の場合は、赤血球以外の成分(白血球や、細菌など)はほとんど見られないことが多いです。
膀胱内視鏡検査
検尿で血尿があり、問診で膀胱癌が疑われる時は、その後すぐに膀胱内視鏡(膀胱鏡)検査を行います。
膀胱の内部を直接内視鏡で観察するので、癌があるかどうか一目でわかります。
胃癌検査の胃カメラのようなものです。
膀胱内視鏡(出典:オリンパス株式会社メディカルタウン)
この時、上記の癌の種類(表在性か浸潤性か上皮内癌か)もある程度推察できます。
膀胱鏡は直径5mmくらいのファイバースコープ(軟性内視鏡)で、胃カメラをそのまま細くしたようなカメラです。
尿道にこれを挿入するので、少々痛みを伴いますが、胃カメラや大腸カメラよりは苦痛が少なく、検査時間も数分で終了します。
尿細胞診
尿の中に混じっている細胞成分を調べる検査です。
浸潤性膀胱癌や上皮内癌では陽性に出ることが多いですが、悪性度の低い表在性乳頭状膀胱癌では偽陰性が多いため、診断能力に劣ります。
画像診断
エコーやCT、MRIなどの画像診断は、大きい癌であれば検知可能ですが、初期の数mmの小さい癌や上皮内癌は見つけることはできません。
(ただし、転移の有無の検索に使われます。)
腫瘍マーカー
一部の検診で行われている腫瘍マーカー「尿中NMP22」は、偽陽性が多すぎて臨床的に使い物になりません。
検診のオプションについている場合は、選択しないことをお勧めします。
膀胱癌には有用な腫瘍マーカーがないというのが現状です。