癌の治療後の再発と予後は、患者本人もしくは患者家族が最も心配する部分ではないでしょうか?
ここでは、臨床医学的に現在一般的に言われているデータをそのまま載せています。
目次
膀胱癌の再発と予後
表在性膀胱癌
通常、命にかかわることはありませんが、非常に再発しやすく、約半数の人が再発します。
そのため、定期的な膀胱内視鏡検査が必要です。
通常は3ヶ月毎に行います。
再発した場合は、前回と同じような悪性度、深達度であることが多く、また、3ヶ月以内であれば、癌が小さいことが多いので、再びTUR-BT(経尿道的膀胱主要切除術)で治療します。
ただし、中には、再発を繰り返しているうちに、悪性度や深達度が進行し、浸潤性膀胱癌になる場合もある(10~20%)ので、要注意です。
浸潤性膀胱癌
膀胱全摘術後に再発・転移が見られる場合があるので、定期的な検査(CTなど)が必要になります。
膀胱癌深達度(出典:がん治療データサービス)
予後は、癌の深達度や手術を受ける病院によって違いがあり、5年生存率は、T2で70%、T3で50-60%、T4で40%くらいです。
膀胱全摘術後生存率(出典:千葉大学泌尿器科)
上のグラフではpT1、pT2など、Tの前に小文字のpが付いていますが、これは膀胱を摘出した後の「病理学的」病期で、臨床病期と異なります。
病理学的病期は、臨床病期よりも軽く出る場合と、重く出る場合があります。
臨床的にはT2だったが、全摘してみるとT1だったとか、臨床的にはT2だったが、全摘してみるとT4だった、などです。
なので、表在性であるT1を含んでいます。
転移性膀胱癌
リンパ節転移がある場合の5年生存率は30%、リンパ節以外の他臓器への遠隔転移がある場合はそれ以下となります。
抗癌剤による治療が行われますが、予後不良で、完治することは難しいです。
転移を有する膀胱癌の生存率(出典:千葉大学泌尿器科)
膀胱癌の検診
大腸癌や卵巣癌、前立腺癌などは、血液検査で癌の存在を予測することができます。
腫瘍マーカーと呼ばれるものです。
しかし、膀胱癌には有用な腫瘍マーカーがありません。
尿中NMP22という腫瘍マーカーがあるのですが、これは偽陽性が多すぎて実際には使い物になりません。
尿細胞診やエコー(超音波検査)では、浸潤癌や大きな癌を発見することは可能ですが、小さな早期癌を発見できないことがあります。
検尿の尿潜血反応は偽陽性が多いため、尿沈渣を行わないと正確な血尿の診断ができませんが、尿沈渣で見つかる血尿(顕微鏡的血尿)で泌尿器科を受診してくる患者さんに、実際に膀胱癌が見つかることは多くありません。
したがって、がん検診で膀胱の早期癌を発見することは困難と言っていいでしょう。
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膀胱癌の予防
予防については、まず最大の発癌物質であるタバコを吸わないことです。
これに尽きると言っても過言ではありません。
タバコ以外の発癌物質で有名なのは、染料に含まれる芳香族アミンと呼ばれる物質です。
一般的な生活をしている人には無関係な話ですが、染料を大量に扱う仕事に従事している人は要注意です。
薬物によるものでは、抗癌剤のシクロフォスファミド(商品名エンドキサン)が挙げられますが、この薬を投与される人はごく限られているので、一般の人にはほぼ無関係でしょう。
一時、糖尿病治療薬のピオグリタゾン(商品名アクトス)が膀胱癌の原因物質であると、アメリカで訴訟に発展する騒ぎになりましたが、その後の調査で、因果関係はないと立証されたようです。
乳酸菌(シロタ株)の表在性膀胱癌再発予防効果
乳酸菌はさまざまな種類(株)があり、それぞれに効能効果があるようで、いろいろな製品が市販されています。
その中で、シロタ株という乳酸菌が、表在性膀胱癌の再発予防効果があると言われています。
シロタ株というのは、皆さんご存じの「ヤクルト」に入っている乳酸菌のことです。
詳しい内容については、こちらのページをご覧ください。
(このページの中ほどにある「▷詳細はこちら」をクリックすると、文献が開きます。)
文献では、シロタ株生菌製剤(ビオラクチスという医薬品です)を1日3g、毎日服用すると、1年後の膀胱癌再発率が45.1%から20.8%にまで減少したと書かれてあります。
(上記の文献より引用)
ビオラクチス1g中には、乳酸菌シロタ株が15億~210億個含まれています。
ヤクルト(無印)1本にはシロタ株が200億個含まれているので、ビオラクチス3g/日は、1日にヤクルト3本飲むのと同じ効果です。
ただ、ヤクルトを1日3本飲むと、40円×3=120円、1ヶ月だと120円×30=3,600円かかります。
ビオラクチスは1gの薬価が6.2円なので、1日3gで18.6円、1ヶ月で558円です。
3割負担でも1ヶ月約168円と、かなり安いので、病院で処方してもらった方がいいでしょう。
血尿が現れたら、すぐに泌尿器科受診を!
膀胱癌は進行して転移すると、非常に予後が悪い癌のひとつです。
しかし、転移する前であれば、適切な治療によって救命できる癌です。
早期発見、早期治療のためには、検診が有効!
と思われるかもしれませんが、前述のように、検診で発見できる乳癌、子宮癌、胃癌、大腸癌、肺癌などと違って、残念ながら膀胱癌は検診で発見されづらい癌です。
肉眼的血尿で発見されることが圧倒的に多いです。
膀胱癌の場合、かなり小さい初期の癌でも立派な(?)血尿が出ることが多いので、血尿が出てからの受診でも、決して遅くはありません。
1週間の入院、1時間の内視鏡手術で治すことができるからです。
痛みなど、他の症状を伴わない無症候性血尿は、「こんなのたいしたことないや…」と軽く見られがちで、放置されやすい傾向にあります。
(痛みなどを伴う場合は、比較的早期に受診する人が多いです。)
そのため、程度の軽い(薄い)血尿や、たまにしか出ない血尿を数ヶ月、あるいは1年以上放っておいて、病院に来た時には進行癌(浸潤癌)だった、という症例は後を絶ちません。
血尿は膀胱癌早期発見のシグナルです。
血尿が現れたら、迷わず泌尿器科を受診するようにしましょう。