家族が、医師から膀胱癌と診断を受けたり、もしくは、自分自身が医師から膀胱癌と診断を受けた場合、真っ先に考えるのは、これから家族や自分自身はどのような治療を受けて、その後の生活(再発や予後)は、どうなるのだろう…。
と、いうことではないでしょうか。
ここでは、まず、膀胱癌の治療方法についてお話していきます。
膀胱癌の治療を理解するには、まず、膀胱癌の種類や病期分類(ステージ)を知る必要があります。
膀胱癌の種類により治療が異なるからです。
なので、まずは自分や家族がどの種類の膀胱癌であるのかを知り、その種類の膀胱癌はどういったものなのかを知ってください。
膀胱癌の種類については下の記事を参照してください。
そのあとに、本記事の膀胱がんの治療を読んでくださると理解が深まります。
目次
表在性膀胱癌の治療
表在性膀胱癌では、乳頭状癌と上皮内癌で若干治療法が異なります。
乳頭状癌の治療
経尿道的膀胱腫瘍切除術(TUR-BT)を行います。
これは内視鏡による手術で、電気メスを用いて癌を切除します。
TUR-BT(出典:東京慈恵会医科大学泌尿器科)
TUR-BT(出典:新百合ヶ丘総合病院)
よほどの多発性(癌がたくさんある)でない限り、ほとんどの表在性乳頭状癌はこの手術1回で取り切れます。
手術時間は、癌の大きさや個数により幅があります。
小さい癌、個数の少ない癌なら短時間で(早いもので10分以内)、大きい癌、個数の多い癌なら長時間(2時間近く)かかります。
入院期間は、手術する病院にもよりますが、だいたい1週間くらいです。
退院後は、すぐに日常生活に戻れますが、術後1ヶ月くらいは再出血の恐れがあるので、激しい運動や力仕事などはしない方がよいでしょう。
術後の治療は何もせず、経過観察となることが多いですが、多発性の場合や、何度も再発している場合は、抗癌剤の膀胱内注入療法(膀注療法)やBCG膀注療法を行うことがあります。
この膀注療法を行った場合、20%ほど再発率が低下すると言われています。
上皮内癌の治療
TUR-BTを行いますが、癌と正常粘膜の境界が不明瞭であったり、広範囲に及ぶものが多いので、全ての癌を切除することは通常不可能です。
そのため、癌の一部だけを取り(生検)、病理学的に上皮内癌と診断された後に、BCG膀注療法を行います。
BCG=イムノブラダー膀注用(出典:日本ビーシージー製造株式会社)
これは膀胱上皮内癌に非常に有効な治療です。
BCG膀注療法は、通常外来的に(通院で)行い、6~8週間かかります。
浸潤性膀胱癌の治療
表在性膀胱癌とは肉眼的に形態が異なるので、膀胱鏡検査である程度のことはわかりますが、まず最初にTUR-BTを行い、病理診断で確定します。
その後、以下の治療が行われます。
膀胱全摘術
全身に転移する危険性があるため、通常は膀胱全摘術の適応となります。
摘出する臓器の範囲は、男性では膀胱、前立腺、精嚢ですが、癌の発生部位や進行度によっては、尿道まで摘出します。
女性では膀胱と尿道ですが、子宮と膣の一部を併せて摘出することが多いです。
膀胱全摘術は、通常は開腹手術になりますが、病院によっては腹腔鏡(ふくくうきょう)手術を行っているところもあります。
(画像出典:山形県立中央病院泌尿器科)
癌が比較的小さく、限局的で、膀胱筋層の浅いところにどどまっている場合は、第2回目のTUR-BTを行い、癌が残っていないことが確認されれば、膀胱を温存できることもあります。
この場合、再発や転移の可能性が低くないので、慎重な経過観察が必要になります。
膀胱全摘術の手術時間は、以下の尿路変向術の種類により幅がありますが、4時間~10時間くらいです。
尿路変向術
膀胱を全摘(摘出)した場合は、尿を溜める臓器がなくなるため、尿路変向術(変更術)が必要となります。
(尿路の向きを変えるので、変更ではなく「変向」という文字を使います。)
尿路変向術には、失禁型変向術と禁制型(非失禁型)変向術があります。
失禁型尿路変向術は尿管皮膚瘻と回腸導管の2種類
いずれも体の内部に尿を溜めることができないため、腹部に作成した尿の出口(ストマ)に集尿袋を貼り付け、この袋に尿を溜めます。
尿管皮膚瘻
尿管をそのまま腹部の皮膚につないでストマを作成します。
(出典:東海大学医学部付属病院泌尿器科)
術式は一番簡単ですが、尿管にカテーテル(管)を入れておかなければならないことが多く、それを定期的に交換しなければならないため、頻回の通院が必要となります。
カテーテルという異物が常に入っているため、尿路感染症を起こしやすいという短所があります。
現在では、特別な理由がない限り、この尿路変向は選択されません。
回腸導管
回腸(小腸の一部)を切り取ったものに尿管をつないで作成します。
腹部の皮膚に作るストマは、この回腸の一部です。
(出典:膀胱を摘出した場合のリハビリテーション[がん情報サービス])
カテーテルを入れておく必要がないので、術後の合併症は少なく、管理は楽になります。
ただ、腸管を利用するので、手術時間はやや長くなるという短所はあります。
失禁型尿路変向術で尿路ストマを持つ患者は、身体障害者4級に該当します。
回腸導管ストマ(出典:Ziekenhuis Gelderse Vallei)
禁制型尿路変向術(新膀胱または代用膀胱)
腸管(小腸や大腸の一部)を利用して袋を作成し、ここに(体内で)尿を溜めることができます。
腹部にストマを作って、ここにカテーテル(管)を通して新膀胱の中の尿を排泄する方法(導尿型新膀胱)と、尿道に新膀胱をつないで、術前と同じように尿道から排尿する方法(自排尿型新膀胱)があります。
導尿型新膀胱(出典:東北大学泌尿器科)
自排尿型新膀胱(出典:東北大学泌尿器科)
いずれも、腹部に集尿袋を取り付ける必要がないという長所がありますが、切断する腸管が長いこと、手術時間が長いことで、術中術後の合併症の頻度が多くなる可能性があるなどの短所があります。
禁制型尿路変向術のうち、導尿型新膀胱は身体障害者4級に該当しますが、自排尿型新膀胱で術前と同じように自排尿できる場合は身体障害者にはなりませんので要注意です。
尿路変向術まとめ(出典:がん治療データサービス)
膀胱全摘術+尿路変向術を行った場合の入院期間は、尿管皮膚瘻や回腸導管ではストマの管理、新膀胱では導尿や自排尿の訓練などを行う期間を含めて、3~4週間くらいになります。
退院後は原則的にはすぐに日常生活に戻れますが、入院期間が長くなることで、体力の低下が心配されますので、あまり無理はしない方がよいでしょう。
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転移性膀胱癌の治療
転移は浸潤性膀胱癌の発見時に見つかることもあれば、術後に見つかることもあります。
(表在性膀胱癌では転移しません。)
転移がある状態でも、膀胱の原発巣(癌)を放置すると、のちに出血による膀胱タンポナーデ(血液の塊で尿の出口がつまった状態)となったり、癌の浸潤による痛み(癌性疼痛)の原因になるので、よほど全身状態が悪くない限りは、膀胱全摘術を行います。
転移に対しては、抗癌剤治療や、部位によっては放射線治療が行われます。
末期状態となった場合は、上記の治療を中止し、緩和医療が行われます。
(出典:Medscape | Lung Metastases Imaging)
膀胱癌の治療法についてのまとめ
以上、かなり専門的な内容になりましたが、簡単にまとめると、以下のようになります。
・いわゆる「初期の癌」である表在性膀胱癌は、内視鏡による手術で治ることがほとんどなので、お腹を切る必要はない。
・内視鏡手術は、2時間以内で終わり、入院期間は1週間程度。
・内視鏡手術の退院後は、すぐに日常生活に復帰できる。
・進行癌である浸潤癌になると、全身に転移する恐れがあるため、膀胱を全部摘出する手術(膀胱全摘術)が必要になる。
・膀胱全摘術をすると、尿の出口を作るための尿路変向術が必要になる。
・尿路変向術には、尿を貯めるための袋をお腹に装着するものと、腸で袋を作り、お腹の中に尿を貯めることができるものがある。
・膀胱全摘術は開腹手術で、4~10時間かかり、入院期間は3~4週間程度。
・転移が見られる膀胱癌には、抗癌剤や放射線による治療が必要になる。