歌舞伎俳優市川海老蔵さん(38)の妻で、フリーアナウンサーの小林麻央さん(33)が進行性乳癌で闘病しているという報道は衝撃的でした。
今回のマスコミの報道のあり方については、いろいろと思うところがありますが、ここで議論するのは、このブログの趣旨に沿わないのでやめておきます。
(画像出典:エンタメウィーク)
さて、今回の小林さんの癌報道で気になるキーワードがありました。
それは、
1.小林さんの年齢が33歳である(若年者)
2.進行性乳癌である
3.1年8ヶ月前の人間ドック(検診)で発見された
の3つです。
目次
若い人の癌は本当に進行が速いのか?
これは世間一般で言われていることだと思います。
確かに、若くして癌にかかった人は、あっと言う間に癌が進行して亡くなってしまうイメージがあります。
逆に、高齢者の癌は進行が遅いというイメージがあるかもしれません。
しかし実際は、若年者の癌でも進行が遅いものもあれば、高齢者の癌でも進行が速いものがあります。
癌の進行が速いか遅いかは、癌にかかった人の年齢ではなく、癌そのものの性質(悪性度)によります。
悪性度が高い癌は進行が速く、悪性度が低い癌は進行が遅い癌になります。
進行の速い癌は治療で完治することが難しいですが、進行の遅い癌は適切な治療で完治できる可能性があります。
癌は若年者に少なく、高齢者に多い病気です。
そのため、数少ない若年者の癌患者は、進行が速く早くに亡くなるように見え、たくさんいる高齢者の癌患者は、亡くなる人は多いのですが、亡くならずに生きている人も多いので、進行が遅いように見えるのです。
なぜ人間ドック(検診)で発見されたのに進行癌になったのか?
悪性度が高い癌は、癌が発生した時点から悪性度が高いのであって、最初は悪性度が低かった癌が途中から「進化」して悪性度が高くなるのではありません。
(ただし、癌の再発を繰り返しているうちに、途中から悪性度が高くなる癌はあります。)
なので、小林さんの癌は、発見された時点で悪性度の高い癌であったと思われます。
検診の頻度と癌の悪性度の関係
人間ドックや検診は、通常1年毎に行われています。
「去年のドック(検診)では異常なしだったのに、今年のドック(検診)で進行癌が見つかった。」というのは、実は珍しいことではありません。
なぜなんでしょうか?
それは、1年という時間の経過と、癌が発生する時期、癌の悪性度と癌が進行するスピードの関係によります。
下のグラフをご覧ください。(クリックすると拡大します)
(このグラフは、当ブログオリジナルです)
進行が速い癌A
進行が速い癌A(赤)は、昨年の癌検診では見つかりませんでした。
しかし、検診の直後に癌が発生し、急速に進行して1年後の検診時には、進行癌になっていました。
進行が速い癌B
進行が速い癌B(茶)も、昨年の癌検診では見つかりませんでした。
癌の悪性度、進行するスピードは、癌Aと同じなのですが、癌が発生した時期が、今年の検診の直前だったので、早期のうちに発見され、適切な治療を受けることができました。
進行が遅い癌
進行が遅い癌(青)も、昨年の癌検診では見つかりませんでした。
進行が速い癌Aよりも早くに発生していますが、進行が遅いので、今年の検診で見つかった時は早期癌で、適切な治療を受けることができました。
進行が極めて遅い癌
進行が極めて遅い癌(緑)は、昨年も今年も検診では見つかりませんでした。
来年も再来年も、もしかしたら一生見つからない(※)かもしれません。
(※)このような癌は、何か別の死因で亡くなった時に解剖すると見つかる場合があり、これを潜在癌と言います。
例えば、70歳以上の日本人剖検(病理解剖)例では、40%以上の人に前立腺癌が見つかると言われています。
癌細胞の成長速度について
このような図を見たことがある人もいると思います。
(画像出典:はじめてガン保険)
上記のグラフで説明したとおり、悪性度が高く進行が速い癌、悪性度が低く進行が遅い癌は、いずれもこの図に当てはまりませんので、ご注意ください。
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検診の落とし穴
以上のように、癌が発生するタイミング、検診を受けるタイミング、発生した癌の悪性度で運命が決まってしまうのです。
ここが検診の落とし穴です。
定期的に検診を受けていても、進行癌で亡くなることがあるということです。
それは決して医者の見逃し、見落としではありません。
検診の回数を増やせば、癌をより早期に発見できる可能性はありますが、癌が見つからない人の方が圧倒的に多いため、コストや労力がかかりすぎるという欠点があります。
そのため、検診や人間ドックは1年毎(短くて半年毎)に行われるのが普通です。
癌の早期発見のためには、検診も重要ではありますが、何かいつもと違う症状があった場合は、早めに医療機関を受診することが最も重要だと考えます。